『幽霊暁に死す』

マキノ正博の『幽霊暁に死す(生きてゐた幽霊)』は素晴らしかった。マキノが分身、コピー、贋作という映画的テーマにずっとこだわってきたことは、『鴛鴦歌合戦』、『弥次喜多道中記』、『忠臣蔵』、『侠骨一代』などからもわかるのですが、本作でも長谷川一夫が二役を演じる息子とその影である父の幽霊という分身関係がテーマとなっています。父と息子の相似は鏡に映るか否かでしか判別がつかず、息子の妻(轟夕起子)はまるで父の妻でもあるかのように二人に寄り添います。幽霊の父が弾くピアノの演奏に合わせ妻が歌うのを聴きながら、父のアトリエで息子が幽霊の描いた妻の肖像画=影を抱いて踊るシーンは、まるでオフュルスのようでした。『鴛鴦歌合戦』では本物を砕き贋作しか残さなかったマキノですが、本作では父の幽霊が消えるとともに、妻の肖像画もスクリーン上の影のように消えてゆきます。それでもその残像はいつまでも心に残るのだと、マキノは言いたいようです。