アプラクサス

アプラクサスは待っている
夕暮れの広場のベンチで
通勤ラッシュのホームで
雪の公園で
息をひそめて


赤いちいさな自転車で
川辺を走るアプラクサ
だれも聞かない
きれぎれの歌
繰り返すフレーズが
水音のよう


土手に寝転び待っていた
赤いちいさな自転車と
夜明けの記憶のアプラクサ


いつもどこかで
見つめている
不在の空に吹く風が
揺らす木々のざわめきのよう
捨てられた自転車の
錆びた車輪の軋みのよう


菜の花畑のアプラクサ
ピアノを弾いて
きれぎれの
赤いちいさな自転車の
やさしい記憶


息をひそめて
ぼくらを見つめる
アプラクサ
だれもいない発表会を
夜明けの空に
待ちながら