佐藤真の『中東レポート』

国内に反アジア・ナショナリズムの波を起こして、それを憲法改正、9条削除、徴兵制導入へ結びつけようとする政府・自民党によるマスコミ操作がいよいよあからさまになっていく今、せめてTBSあたりが佐藤真の『中東レポート アラブの人々から見た自衛隊イラク派兵』を放送してくれたら嬉しいのですが。このレポートは、シリアのダマスカスのパレスチナ人難民キャンプの人々へのインタビューから始まります。日本のイラクへの自衛隊派遣についてどう思うかという質問に、はじめは自分たちは政治的発言をする立場にないと答えを避けていた人々が、では日本に今、9条削除の動きがあるのをどう思うかという「非政治的」質問を向けると、平和が一番だ、戦争になれば犠牲になるのは普通の人々だと語り始め、夕暮れの街を家路につく子供たちの列、行き交う車、食品店で買い物をする人々の映像を挟んで、今度はその食品店の店主が、日本の自衛隊派遣はアメリカの圧力だということはわかっている、日本政府はアメリカの機嫌を取っているんだと語り、その店主がタクシー運転手と挨拶を交わしている傍らで子供たちがカメラに群がる映像を再び挟んで、シリアのドキュメンタリー作家オマル・マミララーイが、「アメリカに飼い馴らされた日本の平和が崩れる日に、日本自身も望んでいない攻撃性が生まれるのではないか?」という危惧を語っているインタビューへと移行します。つまり、佐藤はこのレポートを、普通の人々へのインタビューから始めて、映像作家、共産党指導者、IT企業ビジネスマン、左翼系新聞編集長、作家、雑誌記者など一連の知識人へのインタビューを撮りながら、その合間を街ゆく人々やモスクの広場で遊ぶ子供たちの映像、街や国境地帯を走る車からのトラベリング撮影で繋ぎながら、結局、どの知識人のインタビューも冒頭の普通の人々が語っていたことのパラフレーズにほかならないこと、つまり、日本は平和憲法を守るべきだ、日本がこれまで平和憲法のもとで果たしてきた民間レベルでの援助に中東は非常な敬意を払っている、アメリカの覇権主義に追従すれば日本は損をするという意見が、中東の知識人から庶民にまで浸透している普通の考え方であることを示しているようです。