『去年マリエンバートで』

去年マリエンバートで』では、凝固した過去のイメージが、石像として、白黒写真として、映画として提示されますが、それらは固有性を剥奪され、去年と今年という合わせ鏡によって増幅され、あらゆる場所、あらゆる名前でありうる、いくらでも複製され反復されるコピーとしてあります。その凝固したイメージをめぐって、さらにいくつもの物語が、過去は逃れ去りけっして触れることができないゆえに、けっして真実であることはない、複数のフィクションが語られ、反駁され、また語られ、反復されます。それが上演される舞台は、ドイツの保養地のバロック風ホテルの左右対称の幾何学的空間です。ゴダールの『映画史』にも響いていたあの零時の鐘は、凝固した過去のイメージの解かれることのない秘密を響かせているようです。