花田と尾崎翠

花田清輝尾崎翠
「これは、ここだけのはなしですが、いまでもわたしは、ときどき、いっそひとおもいに、植物に変形してしまおうかと考えることがあります。そして、そんなとき、きまって私の記憶か底からよみがえってくるのは、尾崎翠第七官界彷徨』という小説です。十代の終わりに読んだきりですが、そのなかに描かれていた苔の恋愛のくだりなどはすばらしくきれいでした。したがって、かの女は、相当、ながいあいだ、私のミューズでしたが、その後、風のたよりにきたところによると、気がくるってしまったということです。いま、手もとに本がないので読みかえしてみることのできないのが残念ですが、異常なまでにあかるい日のひかりのみちあふれたようなその小説なかには、みごとに植物のたましいがキャッチされていたような気がします。」(「ブラームスはお好き」)