ニコライ堂

ニコライ堂の夏
中古レコードで聴いた
ジプシーの音楽
記憶をなくし
一人演じるテント芝居


南京虫に背中を喰われ
逃げ帰る
カルパチアから
幡ヶ谷へ
疾走する馬の背に
しがみつく盗賊


海へ漕ぎ出す
チェラヴィエク
人間の
白楊の
スナップショット
ぼくが
ぼくでないなら
きみが
きみでないなら
瓜二つのアリバイを
誰が証言する?


星数え
耳数え
炎上する舞台
きみの名を
呪文のように繰り返す


瓦解する世界
神保町から
カマルグの湿地へ
無数の
向日葵に
見つめられ

ひろう、ひと

あおい、ひかり
ひろう、ひと
つかれ、はまを
さまよう、うみに
いるわ、なみに
ぬれ、ひそやかな
いしの、ひびき
かぜに、ふるえる
ひとのかたちの
りゅうぼく、そらに
かいな、のばし
ひろう、ゆれる
ひかりに、ひらかれ
そばにいるわ、あなたの
かいな、のばし
にかよい、つめたい
いしの、かたわらに
よりそう、ゆうれいたちの
おどり、そらに
いるわ、あなたと
さまよう、ひと
ひびきに、つかれ
ふるえ、あおい
ひかりに、ぬれ

ホンダワラ

山の小径を
発電所の跡地へ
草叢叩き、石叩き登る
落石で死んだ
宮大工の物語を
海鳴りに、聞きながら


ノートいっぱいの
謡曲、繰り返す
フレーズ、半透明の
からだを、船底に
横たえ、歌う
ホンダワラ
とり違えられた、名を
反芻する

プロセルピーナ

石膏像の、幼い
眼差し、雨音に
寄り添い

誰も知らない
町で、水に
書かれた、名を
探す


(キミト
ミミスマシ)


反復する、声
緑の、ざわめきに
消える、きみを
待つ、絵葉書
雨に濡れ


枯木のように、映画館の
すみに、佇む神
ぼくらを拒む、夢に
舞う、フラミンゴ


プロセルピーナ
いくつもの名を
夜風に、撒き
広がる砂漠
ぼくらを、動かす
機械のきしみ

ねこみち

さまよう、おおきな
やなぎ、えきの
ほうむから、ささやく
あいさつする、だれも
いない、しらない
まちを、かぜに
ふかれて、あるく
まつみざか
から、あわ
しまへ、じゃずの
ひびき、ねこみちを
かけぬけ、なつに
しんだ、きみの
はぎしり、しなやかな
うごきに 、やぶられ
ひらく、すきま
あめにぬれ、やなぎを
みつめる、ねこたちの
だんす、かぜに
さがす、こえ
あらがい、さまよう
ゆうれいからの
たより、ゆれる
ぎんいろの、はに
ふる、ぴあのの
ね、ねこみちに
きみのなを、しるし
あいあ、ぽぺいあ