リスボン/ターナー

リスボンには素晴らしいシネマテークがあります。こぢんまりとした入口を入り階段を上がるとビデオ・書籍売場があり、マックス・オフュルスの『ヨシワラ』、『ヴェルテル』、『魅せられて』など垂涎もののビデオが並んでいます。思う存分買物をして、一回りして暗い部屋に入るとそこでは、ジョン・フォードの『捜索者』の宣伝用メイキングなどがエンドレス上映されています。見終って奥に向かうと、そこには一日でもいられそうな快適なカフェがあり、そこでゆっくり本でも読んでいると映画上映時間になります。前回行った時は、ジャック・ターナーの『馬に乗ったストレンジャー』というレア物をやっていました。こんな卑怯なヒーローがいていいの?という感じの作品でしたが、正義の法を熱烈に説いていたヒーローが、人質を取られ窮地に陥るや無抵抗にとぼとぼと引き返すのかと思いきや、突然振り返って敵を奇襲で倒す、ターナーならではの見かけと実体のずれが奇妙な魅力を生んでいる作品でした。
http://www.cinemateca.pt/entrada.asp


必ずと言って良いほど奇妙な物体を演出に使うターナーは、おかしな収集癖を特徴とするベンヤミンのアレゴリカーの一人でしょう。例えば、『私はゾンビと歩いた』のブリオッシュ、あれは見かけは膨らんでいるのに、本当はぺちゃんこという齟齬が、美と死の見分け難い分身性を暗示していましたし、『ベルリン特急』のハイデルベルクの塔のオルゴールは、フランクフルト、ベルリンの相似した瓦礫の形状と重なりながら、その固有性を失った幽霊的反復を、あの世とこの世の境界を越えて流れる音楽によって喚起してたと思います。ターナーほど、反復、分身、擬態という映画の本質を、職人的に浮き彫りにして見せた作家はいないでしょう。