ポルト/オリヴェイラ

ポルトは、ドウロ河の両岸の岩山の斜面にできた街です。ドウロ河に懸かる橋は、下で両岸を結ぶと同時に、その上方の岩山の頂き同士を結ぶという二重構造になっているため、ものすごい高さになり、上の橋から川面を見下ろすと足がすくみます。ドウロ河はここから少し行って海へ流れ込みます。海と河の境界がわからなくなる河口を出ると、昔の城塞があって波に洗われています。ポルトは坂だらけの街です。街の中心の市役所前広場から駅へ向かい坂を上ると、若きオリヴェイラが常連だったマジェスティック・カフェ、映画館、劇場などがあります。雨に降られて入ったfnacで見つけたオリヴェイラの『わが幼少時代のポルト』を久しぶりに見ました。ポルトガル語がわからないのが残念。おかしな虫に咬まれたポルトの思い出に…



『わが幼少時代のポルト
こちらからは見えない光源のさほど強くない光を正面に受けてオーケストラ指揮者の後姿が闇の中に浮かび上がり音楽が始まります。やがて岩に打ち寄せる波の映像から、廃墟となった屋敷の昼の写真、そして同じ風景の夜の写真、夜の海に寄せるさざ波、一転して夜の劇場前、暖色の照明に照らされた劇場内部の階段、真っ暗な舞台で男がガラス扉を破り室内に侵入すると、銃を構えた女が赤いシェードの電気スタンドをつけ、そのどこか幽霊めいた照明が壁の鏡に反映します。オリヴェイラは、彼にとって映画そのものであるポルトを、光と影の交替、明滅をとおして映像化しました。芝居が終わり家へ向かう車は、次々に闇から浮かび上がる街灯の傍らをゆるやかに滑り、後部座席に坐る少年マノエルの顔は、一瞬その微弱な光を浴びては、また闇に沈みます。広場の銅像をフィックスで捉える時の光と影の移ろい、演劇として再現される過去のカラー映像と、白黒のドキュメンタリー・フィルムの交替、再現映像の少年マノエルのセリフとナレーションの老マノエルのセリフのフーガのような反復、ドウロ河は、夜の街の光を水面に砕き散らしてしているかと思うと、古びた白黒フィルムとなり、あるいは小船を浮かべ、あるいは夕空を背に鉄橋を列車が渡るカラー映像、またスクリーンのように静かな水面に昔の映画の音楽と声を付され、またオリヴェイラジャン・ルーシュの共同製作『親しげな心を込めて、あの河が、橋の下から、海の扉を開く…』にもあった車からの移動撮影と、たえずその相貌を変えてゆきます。ポルトは、過去と現在、昼と夜、光と影、カラーと白黒、演劇とドキュメンタリーに二重化され、その間を揺れ動き、ラストの青く霞んだ海の波に洗われる灯台の赤い光のように明滅します。この映画は、ポルト自身がそうであるような夢幻めいた幾多の照明から成っています。マジェスティック・カフェの豪奢な内装の鏡に映る照明、白い大理石像を左上から照らす緑がかった微かな照明、青年マノエルが初めての映画フィルムを編集する照明、夕闇のドウロ河の対岸を遠くさまよう照明。その幻光に照らされた彫像たちと革装の書物は、絶対の不動性において時間を越え、永遠の相からポルトの歴史を見つめているようです。