『犬猫』

井口奈己『犬猫』は、犬が猫に、猫が犬になってしまう不思議な分身感覚が素敵でした。スズのカレーライスを食べる古田と三鷹というよく似た男の反復、古田の家へ走るヨーコとスズ、アルバイト先の家を探して道に迷う二人の反復。そして、最後に、寝ているスズの枕もとで辞書の頁が風に繰られると、雨の中ヨーコの白い服が揺れて、河川敷を犬といつまでも駆けてゆくヨーコ、下着姿でハイライトを吸い始めるスズ、このすばらしいラストで犬と猫が魔法のように入れ替わったように感じ、キム・ギドクの『悪い女』を思い出しました。「スズと私、どこが違うの?」と問い詰められて、「そういうんじゃないんだよ」と困る西島秀俊がハマリ役でした。