エルマンノ・オルミ

最近のエルマンノ・オルミの歴史劇映画は、オリヴェイラストローブ=ユイレの演劇=映画に近づいているような気がします。中国の女海賊(ヒロインの女優イチカワ・ジュンがよかった)を描いた『屏風の後ろで歌いながら』(2003)にしても、教皇軍の将軍ジョバンニとゲルマン軍との戦闘を描いた『ジョバンニ』(2000)にしても、史劇という素材の演劇性を前面に出しながら、その演劇を撮ることをとおしてオルミの映画的感性をスクリーン全体に漲らせる作りになっていると思います。ほとんどはオフで入れられながら、絶妙のタイミングで登場人物の口の動きとシンクロして聞こえる声のイタリア語の響きの美しさ、『ジョバンニ』のほとんどすべてのシーンに映される炎(蝋燭、松明、暖炉、焚火)がカラヴァッジョの絵のように周囲に投じる影の揺らめき、ポー河を流れる流氷、ゆるやかに滑る船、空を渡る無数の鳥、宴のテーブルクロスを、干された洗濯物を翻す風、薪が燃えるかすかな音、ルネッサンス期の幾何学的構図の部屋に響く時計の音、子供たちの不思議な笑い声、鐘の音…。とくにみごとだったのはポー河沿いの古い溶鉱炉に陣取った敵将とジョバンニの戦闘シーンです。降りしきる雪の中を行軍する教皇軍、ゲルマン軍が大砲を装填する金属音、そのそばで燃える焚火の音、馬の轡の音、見つめ合うジョバンニと敵将のカットバック、剣を抜く音、風の音、そして戦闘が始まりジョヴァンニに致命傷を与える大砲の轟が響くまで、セリフはほとんど皆無で、ゲルマン陣営に垣間見られる小さな炎と雪のコントラストと耳に聞こえる物音だけでそれは構成されています。静かに降る雪と重火器を生み出す炎、たゆたう水の流れとふいごのように吹く風、オルミは相米慎二のように自然の元素の相克を見つめ、それに耳を傾けます。しかし、この映画でもっとも感動的なのは、真正面から捉えられた人物同士が見つめ合う美しいカットバックかもしれません。ジョバンニとマントヴァ候が最後に見つめ合うカットバック、瀕死のジョバンニが幻視で子供と見つめ合うカットバック、互いに見つめ合う顔と顔とで映画はできるという単純な事実をあらためて証明して見せた点で、この映画はユスターシュの『ママと娼婦』にも繋がっているように思えます。