ヴィゴとチャップリン

1931年、『水泳選手ジャン・タリス』を撮り上げたばかりのジャン・ヴィゴは、友人のストルクとともにニース滞在中のチャップリンに会いました。そのストルクにヴィゴはこんな手紙を書いています。「今日からニースで『街の灯』が上映される。行くつもりだ。でも不安もある、最近『犬の生活』を見直して、やはりすごい作品だったからね。」*1 『犬の生活』(1918)を見直してすごかったから、新作の『街の灯』(1931)を見たら圧倒されてしまうのではないかと、ヴィゴは「不安」がっているようです。ヴィゴのチャップリンへの傾倒は『新学期・操行ゼロ』のユゲ先生の物まねからもわかりますが、『ニースについて』や『ジャン・タリス』でもヴィゴは、スローモーションや逆回しによってダンサー、水泳選手らの動きを分解することで、チャップリンの自動人形的身体に近い運動を映像として生み出そうとしているのでしょう。ヴィゴと組んだカメラマンのボリス・カウフマンが、ソ連時代にジガ・ヴェルトフと撮った『カメラをもった男』で、メカニック・バレーのように物体が動く特殊撮影をふんだんに取り入れているのも偶然ではないと思います。

*1:Luce Vigo: JEAN VIGO, les petits cahiers, 2002, p.44