『シベリア人の世界』

土本典昭の『シベリア人の世界』(68)は、ジョナス・メカスの『リトアニアへの旅の追憶』(72)を連想させます。ダンスが始まるとカメラを廻しているメカスのように、土本もシベリアの人々の歌と踊りと料理と酒に繰り返しカメラを向けます。野菜もできないシベリアの凍土に、革命後、温室栽培の野菜がもたらされた。革命とは、シベリアの人々にとって胡瓜との出会いだったのだというナレーションとともに、美味しいはずもない胡瓜を実に美味しそうにかじる人々の顔が、素晴らしいものに見えてしまう。ピオネールの少女によるシベリアの詩の朗読の響きが、なぜかこの上なく美しく聞こえてしまう。予測を裏切る不思議な感動に、とまどいを覚える作品です。