『ママと娼婦』

ジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』では、電話から聞こえる声、レコードの歌声、ラジオの伝道番組の声など、機械をとおして聞こえてくる声がまずあり、登場人物たちはこれらの機械に接続された自動人形として存在しているかのようです。この映画における左右対称性のモチーフ(アレクサンドルがベロニカに見せる自分についての詩、幾何学的正確さで繋げられるカットバック、レコードに聴き入る沈黙する身体が示す構成上の対称性など)も、この機械性と関連しています。「ハロー、ハロー、こちらパリ」というラジオ放送の機械的口調が印象的なジャン・ヴィゴの『アタラント号』を、かなり意識して作っているのでしょう。