リノ・ブロッカ

フィリピンの映画作家、リノ・ブロッカの『マニラ・光る爪』(75)は、アメリカン・ニュー・シネマのようなのにカット繋ぎがすごくはやく、過去へのフラッシュバックと歌謡曲を散りばめたメロドラマかと思うとマルコス政権下のアメリカ・日本(主人公がコールボーイに誘われる夜の公園にはSANYO、NECのネオンサインが大きく輝いています)の経済支配への怒りに満ちたドキュメンタリー映画になっています。教会で再会した主人公と恋人が、映画館でニコラス・レイの『キング・オブ・キングズ』が映るスクリーンの前で抱き合うシーンは感動的です。これを見て、やはりマルコス政権下のマニラのスラム街を撮った藤田敏八の『海燕ジョーの奇跡』(84)を思い出しました。フィリピン人との混血児ジョー(時任三郎)が、沖縄から台湾、フィリピンへと国境を越えて疾走し最後に検問を突破して海に至って死ぬまでの映画的運動を描いたこの作品も、東シナ海とマニラの海に小石を投げ入れるという仕草の反復によって、国境という国家による経済搾取を生み出すシステムへの怒りを示していました。

サイケデリック作家・石井聰互は、新作『鏡心』ですっかり色即是空の「新次元」精神世界へトリップしてしまいました。残念ながらそこには、映画をとおして体験する映画的な「新次元」は、完全に欠如していました。映画はたとえスピリチュアルなものであっても唯物論的に提示できなければならないのでしょう。