『ルイ14世による権力掌握』

メカスが「映画の教科書」と呼ぶ*1ロッセリーニの『ルイ14世による権力掌握』(1966)は奇妙な映画です。冒頭、川辺で民衆が王の噂話をしているシーンから、籠を手に画面を横切る女の足音、危篤のマザラン宰相の診察に向かう医師団が乗る馬の足音、鳥の鳴き声、鐘の音などが異様にはっきりと聞こえます。宮殿では、ベッドにすでに死体のように横たわる不動のマザランの周りを動き回る人々の足音が響き渡ります。このマザランと対をなすように、王もまた朝ベッドに横たわったまま臣下を侍らせ、王の指令で機械的に動く者たちの足音がそこに響きます。マザランの臨終シーンでは、それまで隣室の床に横たわり眠っていた夜警や侍女たちが、死の知らせとともに起き上がり、マザランの死体を巡り次第に多くの人々が慌しく動き回ります。前半部で瀕死のマザランの不動の身体を中心に動く人々が記録されるのに対して、後半部ではルイ14世が、フーケーの逮捕、王の衣装のデザイン、ヴェルサイユ宮殿建設などを経て太陽王としての舞台を演出してゆく過程が描かれます。そこでの王はまるで舞台監督のように振る舞いながら、最後には玉座に一人坐り、周囲に身動きもせず居並ぶ臣下を見下ろしながら食事をする不動の中心にみずからを位置づけ、その指令によって機械的に作動し下部組織(例えば調理場)へ行くほどその動きが活発になるシステムを作り上げます。つまり、この作品は、野外での鹿狩りの躍動的なシーンを軸として左右対称に、瀕死のマザランと絶対君主ルイ14世が、生気を欠いた不動の中心として重なり合うように見えます。

*1:『メカスの映画日記』、飯田昭子訳、フィルムアート社、1993、259頁。