『東京上空いらっしゃいませ』

相米慎二の『東京上空いらっしゃいませ』とロッセリーニの『火刑台上のジャンヌ・ダルク』は、死後の生をなによりも聴覚的に研ぎ澄まされたものとして提示しました。どちらも地上の生が人形芝居のように見える高みまで上昇しながら、牧瀬理穂は地球の地軸の軋む音を、バーグマンは天上からの未知の声を聴きます。『東京上空』で聴かれる地軸の軋みは、時おり挿入される子供の笑い声のようでもあり、死を暗示するコオロギの鳴き声のようにも聞こえます。水=死と炎=生への意志がぶつかり合うところで初めて少女は本当の自分に出会うという相米作品において反復される図式に従いながら、ラストに牧瀬が赤から白の服へ着替え、水辺のバーで蝋燭の明かりに照らされて歌うシーンは、ダグラス・サークを想起せずにはいられません。ダンボールのロボットに化ける牧瀬、天使の人形に囲まれて昇天するバーグマン、どちらにもサークの舞台女優のイミテーションとしての美に通じるものがあるようです。