異化作用

叙事演劇的映画において状況の発見=異化は、何よりも大友の言う「認識外聴取」を有効に作動させることによってなされます。例えばストローブ=ユイレの『セザンヌ』において、セザンヌ静物画を捉えた固定ショットで、突然周囲の物音がはっきりと聴取されるとき、過去の静止態として永続性を保つ静物画が、撮影現場の時間の流れの中に置かれている状況が明確に意識されます。あるいは、モンテイロの『往き還り』で、公園のベンチに座るモンテイロを捉えた固定ショットのフレーム外からリスボンの街の様々なざわめきが聞えてくるとき、そこで演じられる「三文芝居」をとおして観客は「映画を見なければ決して意識して聴くことはなかった日常の音」*1を発見させられます。

*1:赤坂大輔、「オリヴェイラと二一世紀の劇映画」、『マノエル・デ・オリヴェイラと現代ポルトガル映画』所収、246頁。