口承文化

バイエルン地方の原始林を出自とする農民のために作られ」、「ベトコンに捧げられた」*1『アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記』(1967)以来、無名の民衆のためのものとしての映画を何よりも聴くべきものとして撮り続けているストローブ=ユイレストローブはインタビューに答えてこう言っています。「私たちの映画は、ほんの少しではあれ、いわゆる口承文化のためのオルターナティヴ、代替物です、つまり、まだ活字が存在せず、人々が暖炉や焚き火の回りに集っていた時代の文化のための。人々は口承で―口承文化として―、口伝えで、様々な物語を語っていました。それが私たちの仕事の主要な点なのです。」*2イメージの氾濫によるコミュニケーションの加速化がとめどなく進行するメディア社会において、映画を印刷術以前の口承文化を後継するものとして位置づけるストローブは、「芸術とはコミュニケーションに対する抵抗である」というドゥルーズの言葉を引用します。映画は、テレビのようなイメージによる即時的情報伝達メディアではなく、むしろ、そのような空間・時間を無化するコミュニケーションに抵抗し、ある一定の時間の持続において「美しい対話」を聞かせるものとしてあるでしょう。