『カーネギーホール』

ウルマーの『カーネギーホール』に採録された音楽家たちの演奏は、カラヤン的なロマン主義的情緒とは無縁な音の硬質さと明晰さによって特徴づけられているように思えます。ドリーブの「鐘の歌」を歌うリリー・ポンスの歌声は、まさに脱性化された機械状アレンジメントとして響き、アルトゥール・ルビンシュタインのピアノ演奏は、自動的に作動する巨大な音楽機械が叩き出す金属音のようです。演奏を終えたルビンシュタインが主人公の少年に「バッハバッハバッハ」とバッハを弾くことの重要性を諭す言葉は、まるでストローブ=ユイレバッハ映画を予告しているようにも聞こえます。