リスボン

リスボンの地下鉄駅バイシャ・シアードの出口にあるカフェ・ア・ブラジレイラの前には詩人フェルナンド・ペソアの像が座っていて、それに隣接するカモンイス広場には大航海時代の詩人ルイス・ド・カモンイスの像が立っています。カモンイスは叙事詩『ウズ・ルジアーダス』でヴァスコ・ダ・ガマのインド洋航海を、テジョ河の女神たちに霊感を乞いながら歌ったポルトガルの古典詩人で、リスボン西部ベレン地区のテジョ河沿いにあるジェロニモス修道院の入口左右には、ガマの棺とカモンイスの棺が並んで安置されています。そのすぐ近くの河岸にはオリヴェイラの映画にも出てくる「発見のモニュメント」という白い石碑があり、左手にはブラジルの巨大キリスト像を模して作られたクリスト・レイの立つ対岸とを結ぶ美しい4月25日橋が見えます。カモインス広場に話を戻すと、そこから始るバイロ・アルト地区の斜面を登りきった頂には、プリンシペ・レアル広場があり、そこにはモンテイロの遺作『行ったり来たり』に登場する杉の木が、映画に見られるとおり大きな傘状に枝を広げています。この杉の木はずいぶん有名なようで、ペソアリスボン案内の中で、「これは、念入りに立てられた設計と注意深い手入れが施されていることによって、リスボンでもっとも美しい公園のひとつとなっている。そこには幾つかのすばらしい種類の木々があるが、もっとも見事なのは一本の杉の木である。その巨大な枝は、錬鉄の支えの上に安らっていて、数百人の人を庇護するに十分なほど大きく広がっている。」*1と紹介しています(ペソアは、当時、名前が変わったばかりのこの広場をあえて旧名でリオ・デ・ジャネイロ広場と呼んでいますが)。また、この公園の地下にはなぜか「水博物館」と呼ばれる貯水槽があり、その水が百メートルほど離れたマンイ・ド・アグア(水の母)通りの階段下にある古代の水道施設エノテカ(現在はおしゃれなワインバー)に送られ、リスボン低地に配給されていたそうです。ちなみに、モンテイロが『神のコメディー』の肉屋の可憐な娘役クラウディア・ティシェイラを見つけたのも、この公園のカフェでのことだったということです。

*1:Fernando Pessoa, Lisbonne, Ed.Anatolia, Paris 1995, p.54.