ジャ・ジャンクー『無用』

ジャ・ジャンクーの新作『無用』は、「無用」ブランドを立ち上げるファッションデザイナーのマー・クーを扱った部分がひどく味気ないのに対して、フェンヤンの仕立て屋や炭鉱労働者を撮ったとたんに映像が生き生きとして、ジャ・ジャンクーが本当に楽しんで撮っていることが伝わってきます。民衆との繋がりを欠いた「アーチスト」をいくら撮っても映画にはならず、「アーチスト」に批判される既製服工場の女工さんの方が映画の対象としては美しい。マー・クーの陳腐なファッション理論は、奥さんに既製服を買ってやる炭鉱夫の感動的なインタビューをいっそう輝かせるためにだけ語られていたようです。ユスターシュの『ナンバー・ゼロ』の中国版リメイクで山形の大賞を獲ったワン・ビンにしろ、プロデューサーである彼女の地元・四川省自貢市にこだわるイン・リャンにしろ、中国農村に暮らすキリスト教徒の生活をブレッソン風に記録するガン・シャオアルにせよ、第六世代以降の中国映画がいま面白いのは、映画と民衆の結びつきを確かに意識するところから出発しているからではないのか、日本の凡庸な「アーチスト」監督ならきっとマー・クーの部分だけで満足して終ってしまうだろうになどと思いめぐらしながら、ホウ・シャオシェンが気に入ったという有楽町の高架下の、サックスを吹く浮浪者やビニールテントの焼き鳥屋を眺めて歩きました。