『愛の予感』

東京物語』で尾道のポンポン蒸気のエンジン音がラストで原節子が開ける懐中時計の音へと繋がっていくように、小林政広の『愛の予感』では、すべての物音が日常の反復を刻む秒刻として響いています。特に渡辺真起子がボールで卵を溶き、フライパンで焼く音の美しさは、リッティク・ゴトクの『ティタシュという名の河』でパションティが祭のために餅を焼く(サモサを揚げる?)音にも匹敵します。労働と食事、食事と労働の反復反復反復…その反復の微小な差異から、死から生への転調が生じるフーガ形式の映画。音楽もセリフもなくとも、映画そのものを音楽として聴くことができる作品です。