『ヒズガール・フライデー』

ホークスの『ヒズガール・フライデー』の死刑囚は、公園で聞いた演説中の「有効需要」という言葉に無意識のうちに支配され、精神喪失状態でその言葉に反応して、手にしていた銃の「有効需要」のために警官を殺害したと言われます。ホークスが、この殺人犯と、ヒロインを含めた新聞記者たちとを類比関係に置いていることは明白です。記者もまた、パブロフの犬のように、電話のベルに機械的に反応し、ほとんど無意識に言葉を紡ぎ、あることないこと様々な物語をでっち上げることによって、結果的に殺人を引き起こすこともはばからない。「人間らしく生きるために記者をやめる」とヒロインが繰り返し口にするのは、ホークス映画の超高速で交わされる会話の担い手が、『無限の青空』の航空管制システムの担い手のように、言葉によって機械と結ばれた非人間的主体としてあることを示しています。映画的主体は、すでにトーキー初期から、言葉に支配されたトーキング・マシーンとして表象されており、そこからいかにして一人の「人間」を奪還するかが、以後、なお問題であり続けるでしょう。