ロベルト・ヴァルザー『白雪姫』

ロベルト・ヴァルザー『白雪姫』、フィクションの力のニーチェ的肯定。
「狩人:わたくしがあなた様を殺そうとしたなどと信じておいでなのですか?
白雪姫:はいと同時に、いいえと答えましょう。はいを絞め殺すと、即座にまたいいえがはいと申します。わたしが信じていると、仰ってください。わたしがいつもあなたを信じるしかないのだと、仰ってください。いいえと言うのにわたしは疲れました。はいこそが妙なるもの。何を仰ろうとわたしはあなたを信じます。いいえにはとっくに嫌気がさしました。だから、はい、はい、わたしはあなたを信じます。
狩人:ごらんください、これが白雪姫の声なのです。ご自身は悪意に固まっているのでなく、みずからを苦しめ、また彼女に愛を捧げている他の人々を苦しめておられるのです。だからわたくしが、悪意の言うことは嘘なのだと、でっちあげの毒ある嘘なのだと申し上げたら、白雪姫、わたくしを信じてくださいますね。
白雪姫:はい、なんと嬉しいことでしょう。ああ、はい、あなたの仰るすべてのことに、どうしてはいと言わずにいられましょう。はいと言うのは実に心地よく、このうえなく甘美なことですから。わたしはあなたを信じます。はい、たとえあなたが嘘をつき、空高くおとぎ話を積み上げようとも、すぐにばれるほど雑に間抜けに嘘を描き出そうとも、いつもあなたを信じます。はいと、いつもはいと言わずにいられません、こんな妙なる信心がいまほどほとばしり出たことはありません、はい、このはいほどに、告白が甘美であったことはありません。なんであれ仰ってください、わたしはあなたを信じます。」