ヘルダーリン「ゲルマニア」

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インダスから飛び立った鷲は、/パルナソスの/雪をいただく嶺を越え、イタリアの/供犠の丘々をはるかに見おろして過ぎ、喜ばしい獲物を/父なる神のために探し求める、かつてなく手慣れた飛びかたで/老いた鷲は、歓呼の声をあげて羽搏き/ついにアルプスとよく耕された国々を目にする。

あの女司祭、最も物静かな神の娘、/深遠な単純さにおいて黙することをなによりも好む者、/彼女を鷲は探しているのだ、しばらく前に嵐が/死の脅威とともに彼女の頭上で鳴り響いたときにも、/それを知らないかのように、目を見ひらいて眺めていた――/その子はより良いものを予感していた/、そしてついには天の果てまで驚きに包まれた、/なぜなら子は信じることにおいて偉大であったから、あの/祝福する力、至高の力自体がそうであるように――/それゆえ彼らは使者を送った、彼女をすばやく認め/、微笑みながらこう考える者を――揺ぐことなき者よ、さらに別の言葉が/おまえの試練とならねばならない、いまや若者の姿となった使者は/ゲルマニアを仰ぎ見つつ、それを高らかに叫ぶのだ――/「あなたは選ばれて、/万物を愛する方、過酷な幸運に/耐える強さを身につけた方、/森の中に隠れ、花咲く罌粟の/甘美なまどろみに充たされて酔い、私のことなど/気にも留めなかったあの頃から、まだこの乙女の矜持を感じるひとも/、あなたが誰で、どこから来たのか驚くひともほとんどなく、/あなた自身もそれを知らずにいた昔から。私はあなたを見誤らなかった。/そしてあなたが夢見ているうちにこっそりと、真昼時、/別れぎわに私は友情の徴として、あなたに/口という花を残した、そしてあなたは孤独に語っていた、/だが黄金の言葉の充溢を、至福の者よ!あなたはまた/あまたの流れとともに送り、その流れは尽きることなく/あたり一帯に溢れ出た。なぜならほとんどあの聖なる者、/隠れた者といつもは人間から呼ばれている/万物の母に似て/、あなたの胸は愛と苦悩によって/予感に充ち/平安に充ちているから。

ああ、朝のそよ風を飲むがいい、/あなたがひらかれるまで、/そして目の前のものを名づけるがいい、/長く覆われていたのち/もはや秘密をこれ以上/言われぬままにしておくことは許されない――/なぜなら死すべき身の者たちには恥じらいがふさわしく、/ほとんどいつもこのように語ることは、/神々にとっても叡智となるから。/しかし純粋な源泉よりも豊かに黄金が/湧き出で、天にある怒りが見過ごせぬものとなったとき、/昼と夜のあわいに/一回限り真なるものが現れねばならない。/あなたはそれを三重に書き換えよ/、だが無垢なる者よ、それはまた、/そこにあるまま言われぬままに、とどまらねばならない。

ああ、聖なる大地の娘よ/一回でも母を名づけるがいい。岩山には清水が、/森には嵐がさざめき、その名のもとでは/消え去った神的なものが太古の時代から再び響き昇る。/何とちがっていることか!来るべきものは遠くから十全に輝き/また喜ばしげに語りかける。/だが時の中央には/聖別された処女なる大地とともに/エーテルが静かに息づき、/なにひとつ欠けることない者たち、彼らが/想起のために、喜んで、/なにひとつ欠けることない祝日に、ゲルマニアよ/あなたの祝日に、客をもてなす主人となる、/そのときあなたは女司祭として/周囲にいならぶ王たちとあまたの民に/武器をもたぬまま助言を与える。」