佐渡

灰色の海にうかんだ
思い出のなかのあの島は
ちっぽけな胴体から
北と南へ
おもいきり翼をひろげ
暮れかかる空にむかって
ヒラヒラと飛び立とうとする
大きな蝙蝠そっくりだ
ああ、あの島でわたしは
不意に役者になったのだ
鳥でも獣でもない
そして同時に
鳥でも獣でもあるものに――
蝙蝠には自分がない
かれらに残されている道は
ひとの生活を生きること

      花田清輝『ものみな歌でおわる』