トーメ『タロット』

ゲーテの『親和力』のトーメによる映画化『タロット』でエドゥアルト役を演じたハンス・ツィシュラーは、トーメの映画を活人画と特徴づけます。流れる川のさざめきが闇夜に開かれた窓から入り込み部屋を満たす中、タロットで未来を占うオッティーリエの顔が絶妙な光線の固定画面で捉えられます。時間の流れに晒されながら、あたかもそこから切り離されたかのように浮かび上がる活人画のワンシーン。ゲーテの『親和力』では、オッティーリエが聖母マリアに扮し幼子イエスを抱く活人画が描かれますが、現代劇として撮られた『タロット』でトーメは、赤いTシャツのオッティーリエが青いバスタオルで湯上りの赤ん坊を抱くというかたちでこれを再現しています。もちろん赤と青は伝統的な聖母の服の色です。原作のオッティーリエは湖でボート遊びをしていて子供を死なせてしまうのに対し、『タロット』ではこの姿でエドゥアルトと長電話をしたことで赤ん坊は熱を出して死んでしまうという展開になります。赤ん坊を抱くオッティーリエの姿を活人画として撮るための見事な演出です。湖、活人画、あるいは『哲学者』に見られる古代ギリシャの三女神(モイライ)の官能性、あるいは『ピンク』の色彩論など、トーメにとってゲーテが映画作りの源泉としてあることがわかります。ストローブが、初めて見たとき涙したという『シュテラ』もまた、ゲーテの戯曲です。