儀式

朝になるとぼくは
町家の狭い階段を上り
映画を撮る
洗濯物を干すきみの
横顔を重ね
壁に張られた紐の
カーヴを記録する
切り取られたフレームの
均質な時間が
ぼくらの儀式を
浸してゆく


引越しの朝
積まれてゆく段ボールの間で
きみはやはり
洗濯物を干す
ぼくは階段に三脚を据え
キャメラを覗く
名前を消し
日付を消し
高く積まれる
段ボールに埋もれ
遅延するトラックを
待ちつづける


空の段ボールを数え
食べ残しのカレーの味を確かめ
室外機の横に置かれた
錆びた自転車を
終わりのない儀式の
証人として
揺れるバスタオルの影を
きみの横顔に繋ぎ
町屋の片隅で
映画を撮る


誰もいない部屋の
ゆくあてのない段ボール
継承される儀式の
朝の洗濯物
繰り返される風景を
空っぽの闇に宿し
キャメラもなく
三脚もなく
崩れかけた白壁に向かい
湿気に耐え
待ちつづける


やがて幕があがり
誰のものでもない朝が
映しだされるのを