プロセルピーナ

石膏像の、幼い
眼差し、雨音に
寄り添い

誰も知らない
町で、水に
書かれた、名を
探す


(キミト
ミミスマシ)


反復する、声
緑の、ざわめきに
消える、きみを
待つ、絵葉書
雨に濡れ


枯木のように、映画館の
すみに、佇む神
ぼくらを拒む、夢に
舞う、フラミンゴ


プロセルピーナ
いくつもの名を
夜風に、撒き
広がる砂漠
ぼくらを、動かす
機械のきしみ

ねこみち

さまよう、おおきな
やなぎ、えきの
ほうむから、ささやく
あいさつする、だれも
いない、しらない
まちを、かぜに
ふかれて、あるく
まつみざか
から、あわ
しまへ、じゃずの
ひびき、ねこみちを
かけぬけ、なつに
しんだ、きみの
はぎしり、しなやかな
うごきに 、やぶられ
ひらく、すきま
あめにぬれ、やなぎを
みつめる、ねこたちの
だんす、かぜに
さがす、こえ
あらがい、さまよう
ゆうれいからの
たより、ゆれる
ぎんいろの、はに
ふる、ぴあのの
ね、ねこみちに
きみのなを、しるし
あいあ、ぽぺいあ

アッシジ

うんぶりあの
さんだる、ひからび
やぶれ、ねむる
すずの、ね
つえを
つき、あおい
ひかり、あつめ
うたう
さんだるを、ぬぎ
きみと、おどる
ゆれる、おめだい
かたこんべに、ねむる
うんぶりあの、ゆめ
きみがさった
あとの、いのりの
ように

凧あげ

季節はずれの空に
凧をあげる
回る糸繰り車
往来する艀
版画に刻まれ
失効する遠近法
河は彎曲し
北へ向かう


石の重み
規則正しく引かれた
線から線へ
さまよう時の
朱色に塗られた
平面に耐え


市場の喧騒
荷を運ぶ労夫と
戯れる女たち
岩壁沿いに走る列車
巨大なアーチを
風に抗い
渡る人影


氾濫する河が
すべてを洗い流すとき
ぼくらは小舟に乗り
また凧をあげる
水に映える光に眩暈し
糸の響きに耳を澄ます


空のスクリーンを
横切る小舟の
さざ波に震える
一筋の航跡が
ぼくらに伝える
その距離を
糸繰り車で
測りながら

儀式

朝になるとぼくは
町家の狭い階段を上り
映画を撮る
洗濯物を干すきみの
横顔を重ね
壁に張られた紐の
カーヴを記録する
切り取られたフレームの
均質な時間が
ぼくらの儀式を
浸してゆく


引越しの朝
積まれてゆく段ボールの間で
きみはやはり
洗濯物を干す
ぼくは階段に三脚を据え
キャメラを覗く
名前を消し
日付を消し
高く積まれる
段ボールに埋もれ
遅延するトラックを
待ちつづける


空の段ボールを数え
食べ残しのカレーの味を確かめ
室外機の横に置かれた
錆びた自転車を
終わりのない儀式の
証人として
揺れるバスタオルの影を
きみの横顔に繋ぎ
町屋の片隅で
映画を撮る


誰もいない部屋の
ゆくあてのない段ボール
継承される儀式の
朝の洗濯物
繰り返される風景を
空っぽの闇に宿し
キャメラもなく
三脚もなく
崩れかけた白壁に向かい
湿気に耐え
待ちつづける


やがて幕があがり
誰のものでもない朝が
映しだされるのを

お化け

海に浮かぶ小島
墓場の宿に
お化けと泊まる


桜が散る夜
お化けはいつも
そこにいて
ぼくらの記憶を
おかしくする


毎朝
ぼくらは船出する
桜の木の下に
お化けを残して
きみは空ばかり撮っている
虚ろに響くガイドの声
波の飛沫に霞む
赤い灯台


お化けと過ごした夜を思う
きみとぼくの間で
笑っていた
やさしい不在
いまもぼくらを待っている
あの島でも この島でも
繰り返される
旅の終わりに
たどりつくのは
同じ場所


桜の木の下で
待っている
きみの撮ったビデオに映る
お化けの泣き顔
空にはためく
白いスクリーン


明滅する灯台の向こうに
沈む夕日を
大きな瞳で
見つめている