『ニース、ジャン・ヴィゴについて』

ジャン・ヴィゴの『ニースについて』の翌年に『ドウロ河』を撮ったオリヴェイラの短編『ニース、ジャン・ヴィゴについて』は、やはり映画の幼年時代についての作品です。現在のニースのイギリス海岸とヴィゴの撮ったイギリス海岸、子供たちの遊戯広場でピエロの歌に合わせて回る飛行機玩具、人気のない深夜の通りを照らす街灯。夜の広場の噴水の手前を行き交う人々の淡い影をスローモンションで捉えたシーンから、『ニースについて』の踊る女たちを仰角スローモーションで捉えたシーンへ移行した後、娘のルース・ヴィゴが現れ、ここでピエロの服を着て女たちと踊っている男がヴィゴであることを告げます。ニースで生まれ、3才で父を亡くした彼女が、監獄で死んだ無政府主義者を父にもつヴィゴとその映画仲間への思いを(ボリス・カウフマンが死んだその日に)語る感動的なシーンの後、彼女の自宅の壁に掛かる3才のヴィゴ肖像画をゆっくりとカメラは捉えて映画は終わります。オリヴェイラは『ニースについて』の反復としてこの作品を撮りながら、現在のニースとヴィゴのニース、ルースの3才の記憶とヴィゴの3才の肖像、ポルトガル人移民労働者とヴィゴの仲間たちを重ね合わせます。ヴィゴがスローモーションで群集の動きを分解して見せたのを、あえて反復するオリヴェイラは、映画がいまも幼年時代の場所を、飛行機玩具のように回っていることを示しているようです。
(L’INTEGRALE DVD JEAN VIGO, DISQUE 1)