2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『フォーエヴァー・モーツァルト』

たえざる中断とエピソード的シーンの連結、そして悲喜劇的な醒めた演技という叙事演劇的特徴を備えたゴダールの『フォーエヴァー・モーツァルト』は、マルローの『希望』のオーディションで連発されるノン、書店でマリヴォーを探すジェロームが発するノン、…

『火刑台上のジャンヌ・ダルク』

『火刑台上のジャンヌ・ダルク』では、豚の裁判長、羊の陪審判事、ロバの書記、カードゲーム化された戦、酒樽母さんに石臼おやじといったアレゴリー的形象によって演じられる個々の演劇シーンが、天使によって翻訳された本の頁として提示され、同時に天上か…

キアロスタミ

キアロスタミはかつて、『桜桃』の登場人物について次のように語っていました。 「私は観客とのあらゆる情緒的繋がりを避けるために、男の物語を語りたくありませんでした。私の登場人物は、建物の規模を示す目的で建築見取図に描かれる人間のようなものです…

人生の文字化

「人生が書かれた文字に変容しているのを感じる」とはどういうことなのか、ベンヤミンは『一九〇〇年頃のベルリンの幼年時代』で次のように言います。 「早いうちから私は、言葉の中に自分を包み込んで―言葉(ヴォルテ)は本当は雲(ヴォルケ)だった―雲隠れする…

ブレヒトとバロック

「ブレヒトは叙事演劇の話をする。児童劇で演出の欠陥が、異化効果を生み出しながら、叙事的な特徴を舞台に与えることなど。旅回りの一座でも似たようなことがおこりうるという。ぼくはジュネーブで見た『ル・シッド』を思い出す。その舞台で国王の頭に冠が…

異化作用

叙事演劇的映画において状況の発見=異化は、何よりも大友の言う「認識外聴取」を有効に作動させることによってなされます。例えばストローブ=ユイレの『セザンヌ』において、セザンヌの静物画を捉えた固定ショットで、突然周囲の物音がはっきりと聴取され…

大友良英と叙事演劇

大友良英が、高橋悠治のワークショップで行われた「音に集中しない聴取の訓練」について書いています。*1それによれば、音の聴き方には、「認識的に聴く方法」と「非認識的とでもいうしかない、ぼんやりと全体を感じるような聴き方」があり、互いに「補完し…

ベンヤミンとブレヒト

ロッセリーニの『火刑台上のジャンヌ・ダルク』で、死後もジャンヌの耳に残り苦しめたのは、裁判を記録する書記のペンが羊皮紙を擦る音でした。その裁判記録が天使によって書かれた一冊の書物へと変容し、天上から響く声に充たされるとき、ジャンヌを焼く炎…

『ボヴァリー夫人』

ルノワールの『ボヴァリー夫人』も足音にこだわった映画です。騎士道に憧れるエンマと医師シャルル・ボヴァリーが知り合うのは、エンマの父ルオーの足の治療がきっかけで、馬の足音を響かせて往診するシャルルにエンマは、馬は馬車よりエレガントだと言い好…