2006-01-01から1年間の記事一覧

人生の文字化

「人生が書かれた文字に変容しているのを感じる」とはどういうことなのか、ベンヤミンは『一九〇〇年頃のベルリンの幼年時代』で次のように言います。 「早いうちから私は、言葉の中に自分を包み込んで―言葉(ヴォルテ)は本当は雲(ヴォルケ)だった―雲隠れする…

ブレヒトとバロック

「ブレヒトは叙事演劇の話をする。児童劇で演出の欠陥が、異化効果を生み出しながら、叙事的な特徴を舞台に与えることなど。旅回りの一座でも似たようなことがおこりうるという。ぼくはジュネーブで見た『ル・シッド』を思い出す。その舞台で国王の頭に冠が…

異化作用

叙事演劇的映画において状況の発見=異化は、何よりも大友の言う「認識外聴取」を有効に作動させることによってなされます。例えばストローブ=ユイレの『セザンヌ』において、セザンヌの静物画を捉えた固定ショットで、突然周囲の物音がはっきりと聴取され…

大友良英と叙事演劇

大友良英が、高橋悠治のワークショップで行われた「音に集中しない聴取の訓練」について書いています。*1それによれば、音の聴き方には、「認識的に聴く方法」と「非認識的とでもいうしかない、ぼんやりと全体を感じるような聴き方」があり、互いに「補完し…

ベンヤミンとブレヒト

ロッセリーニの『火刑台上のジャンヌ・ダルク』で、死後もジャンヌの耳に残り苦しめたのは、裁判を記録する書記のペンが羊皮紙を擦る音でした。その裁判記録が天使によって書かれた一冊の書物へと変容し、天上から響く声に充たされるとき、ジャンヌを焼く炎…

『ボヴァリー夫人』

ルノワールの『ボヴァリー夫人』も足音にこだわった映画です。騎士道に憧れるエンマと医師シャルル・ボヴァリーが知り合うのは、エンマの父ルオーの足の治療がきっかけで、馬の足音を響かせて往診するシャルルにエンマは、馬は馬車よりエレガントだと言い好…

『ルイ14世による権力掌握』

メカスが「映画の教科書」と呼ぶ*1ロッセリーニの『ルイ14世による権力掌握』(1966)は奇妙な映画です。冒頭、川辺で民衆が王の噂話をしているシーンから、籠を手に画面を横切る女の足音、危篤のマザラン宰相の診察に向かう医師団が乗る馬の足音、鳥の鳴き声…

『東京上空いらっしゃいませ』

相米慎二の『東京上空いらっしゃいませ』とロッセリーニの『火刑台上のジャンヌ・ダルク』は、死後の生をなによりも聴覚的に研ぎ澄まされたものとして提示しました。どちらも地上の生が人形芝居のように見える高みまで上昇しながら、牧瀬理穂は地球の地軸の…